488GTB!結局のところ、フェラーリのターボは、アリなのか?
2015年、芸術的な自然吸気エンジンがウリだったフェラーリが、V8ラインアップについて、いよいよターボチャージドすることになった。ポルシェは一足先にそっちの方向性へと舵をきったのだが、フェラーリにとってそれはアリなのか?それともナシなのか?・・・は、RCガレージでもエンスージアストたちの間で議論が続いている。2017年のいまも488GTBの評価は、揺れている。
新世代のファンにとっては、高い品質と素晴らしいスペック、相変らず匂い立つ圧倒的なブランド・テイスト・・・さえあれば、そこに何の文句をつけようか。そもそもハイブリッド&EV世代にとっては、「NA?」「自然吸気エンジンって何がいいの?」という方々も多いのだから。
対して、Dinoや308をはじめ、キャブレター時代からのフェラーリ乗りである筆者のような世代にとっては、現代のスーパースポーツの大きな変化は、これまでとは違った味覚に慣れなければ、と焦燥感がもたげてくる。
クルマ屋がこんなことをいってはいけないが、それくらい、最近のスーパーカーは、スポーツドライビング・カーとしての“味”が変質している。
ところで、フェラーリにしてみれば、ターボチャージドは、アリもナシもない話。主戦場となるマーケットへの環境適合性を前提とすれば、ダウンサイジンターボやハイブリッドモデルのラインアップ比率を高めていくことは、メーカーにとって必然的に取得せざるを得ない、通行手形のようなものだから。
しかし、筆者のような旧車エンジニアたちが思うに、今後の排ガス対策を考えると、これ以上の「小排気量+ターボ化」はいささか疑問符がつく。「高回転型」の「スポーツエンジン」なので仕方ないが、つまり乗り手によっては、CO2の排出量を劇的に抑えこむのは難しくなる。むしろ、エコ指向の富裕層に向けて、マルチシリンダーの「大排気量」+「低回転」エンジンという方向性もCO2排出量削減のことだけを考えればありなのでは。どのみちフェラーリは飾っておくだけでサーキットに持ち込むオーナーも少ないのだから、とも思うが、「スポーツカーは高回転ユニットであること」が、なんとなく定義づけられている。
いずれにせよ、キャブ時代からのフェラーリ乗りである我々にとって、重量増を招くハイブリッドや、電動ラジコンカーのような無味乾燥で速いだけのEVに、魅力を感じない。いま以上の感性の刺激を電動モーターから享受されることはまずないからだ。したがって、488シリーズのV8ターボは、もしかしたら筆者たちにとって化石燃料だけで走る最後のV8フェラーリになるのかもしれない。そうなってほしくはないが。
80年代のフェラーリターボは、圧倒的にスリリング!自然吸気よりHOT!だった。
Ferrari 288 GTO
引用元:FavCars.com
思い起こすまでもなく、フェラーリにとってターボエンジンの搭載は、488が最初のアプローチではない。かの創業者エンツォが自ら指揮をとってプロデュースした最後のモデル、名作F40や、二コラ・マテラッツィのエンジニアリングが注ぎ込まれたがF40になれなかった前作の288GTO、はたまた、328ボディを纏ったレアなスペシャル、GTBターボがある。
Ferrari GTB TURBO
引用元:auto.ferrari.com
ちなみに近年、欧州のコレクター達の間では、このGTBターボが注目されている。GTBターボは、288GTO以降に少量生産された特殊なモデルだ。なので、GTBターボは、288GTOのターボチャージド・エンジニアリングの穏やか過ぎた特性のいくつかが改良されており、小排気量ながら288よりも加速の炸裂感が増している。GTBターボは、80年代当時のイタリアの税制(小排気量車両への税金が安かった)にフィットさせるためのモデルとしていたが、現地本国では、実は、のちのF40にフィードバックするための本国内で限定的に行った好都合な量産テストプロダクツだったのではないかとも囁かれている。
たいへんレアなモデルだ。(※生産台数:クーペモデルはわずか308台、うち実際の登録台数はそれ以下)
Ferrari F40
引用元:FavCars.com
こうして、80年代のネオ・クラシックフェラーリの中で、近年その熱いドライバビリティとバリューについて高く再評価がされているのは、「ターボエンジン」搭載車である。つまり、V8フェラーリをホットにしてきたのは「ターボ」だったのかもしれない。
フェラーリは、ミケーレの156など当時のF1でも積極的に小排気量・ターボエンジンを導入していた時代もあり、歴史的にみてもターボテクノロジーの積み上げがある。だから、フェラーリのターボ、大いにアリ!というしかない。
ターボは環境適合への選択肢だったが、副産物は、刺激的なファントゥドライブだった。
ちなみに、‘80年代の「GTBターボ」の発表は、特別なオーナーを招いて開催される現在のフェラーリ・スペチアーレお披露目パーティ同様、一部の本国ディーラー(販売エリアが本国イタリアに限定されていたため)を中心に招いて行われている。
だからか、GTBターボの鋭いドライバビリティもリアルなインプレッションもメディアではあまり報じられていない。なにしろ、走りに特化したクーペモデルは生産台数が少ない上、30年に及ぶ経年劣化もあってインタークーラーやアキュームレーターなど、他のデリケートなターボカー同様に、当時のコンディションを完調状態で維持している個体も少ないから当然だ。
Ferrari GTB TURBO エンジン
なお、現存する当時の広報資料を見ても、自然吸気エンジン搭載の量産モデル、328GTBのカタログよりも、GTBターボのカタログは特別感にあふれるシックでミステリアスな内容で製作されている。それを見ても、フェラーリのGTBターボに対する特別なモチベーションが伝わってくる。
実際、近年になって超少量生産のGTBターボは、288GTO以降、F40発表前夜までの“隠れた名作”として認識する欧米のコレクターたちが増えたことで、市場に出回ることは滅多にない。乗り味も現代のフェラーリにない過激な炸裂感に満ちており、オーナーが手放さないというのもある。
いずれにせよ、288GTO、GTBターボ、F40に取り入れた当時のターボテクノロジーは、排ガス規制による“環境適合性”をバックグラウンドとしながらも、フェラーリにとっては、“小排気量エンジンでもエキサイティングなマシンを生み出せる“という、V8モデルのバリューを高めるのに必然のツールだった。現代のV8モデルの488も同様だ。
Ferrari 488 GTB エンジン
引用元:CORNES
後編へ続く・・・