SVの意味するところ。
獲物に襲い掛かろうとする狂獣の低い唸り声。その創業の由縁には、FERRARI創業者、エンツォ・フェラーリに対する遺恨があったとされるランボルギーニだが、クルマビジネスに参入する以前は、トラクターなどを製造するイタリアの農機具メーカーだった。
ランボルギーニ製トラクター
‘70年代に日本全国の少年たちを虜にしたかのスーパーカーブームの裏側で、実は経営不振に喘いでいたランボルギーニは、幾多の株主変更を経て、現在はアウディグループの一員として、最先端のカーボンテクノロジーと精密なAWDシステムを武器に、現代のフェラーリに挑みかかる。カーボン技術と電子制御で武装したサイバースポーツを送り出すメーカーとなった。いまのランボルギーニのトップもフェラーリ出身だから、フェラーリが失いつつあるものを、ランボルギーニが具現化していく期待はある。今も昔も、ランボルギーニは前衛的であることに、創業者フェルッチオから継承されたチャレンジ精神が垣間見える。
フェルッチオ・ランボルギーニ(1916年4月28日 – 1993年2月20日)
紐解けば、ミウラSVから歴史にその名を刻み込んできた、特別なモデルに冠せられるSV(スーパーベローチェ)とは、イタリア語で「めっちゃ速い!」という意味。
その名は、90年代にはディアブロSVへと継承され、21世紀に入ると後継車のムルシエラゴSVとしてランボ乗りたちのハートを掴みかけるが、これまでSVが意味する速さに対するアプローチの結果は、残念ながらライバルのフェラーリを脅かすものとはいえなかった。
Lamborghini Miura P400SV
危うしフェラーリ!アヴェンタSVで、ランボは本物のスポーツカーメーカーになった。
トランスポーターから降ろされたアヴェンタドールLP750-4SVは、神社の鳥居のようにそびえ立つ巨大なカーボンファイバー製リアスポイラーをボディフレームと剛結させた井出達で、フロントリップスポイラーと3分割された造形によって設置されたミニブルドーザーのような2つの突き出たエアインテークが、只ならぬオーラを周囲にまき散らす。フェラーリ社のリミテッドエディションモデル、フェラーリENZOをサーキットと週末のワインディングロードで溺愛してきた筆者にとって、歴代のランボSVは、遥かな頂に君臨するフェラーリに対して、山の7合目あたりから王者に向かって吠える、永遠のチャンジャーといった存在だった。それは、アヴェンタドールがデビューしてからも変わらなかった。
結論から言ってしまえば、アヴェンタドールのSVをひとしきりいつものワインディングロードとサーキットで走り込んでいくうちに、このクルマを体感すればするほど、すっかりSVの虜になってしまった。あれほど溺愛していたENZOの、カーボンパネルの立て付けがもたらすガタピシした騒音や、いまとなってはシフトダウンの最中にあくびが出そうなスローなギアシフトタイム、床が抜けるほど踏み込んで、突如効きだすタッチ感が曖昧でリニアなフィールとは程遠い砂消しゴムみたいなカーボンセラミックブレーキや、パワーとシャシーに対して不整合とも思える柔な脚など・・・ENZOのすべてが、アヴェンタドールSVと比べることは時代錯誤とはいえ、自動車工業技術の進歩の性で、ENZOの未完成具合ばかり目につくのは仕方ない。つまり、性能に対してSVは、かなりのバーゲンプライスである。
アヴェンタSVは、男の中の男が選ぶクルマだ。
それほどまでに、アヴェンタドールSVは、フェラーリ創業者の名を冠したENZOよりも、速くて鋭い。そして、精巧かつ強靭によく出来ている。写真だけでみるとガンダムチックに見えたが、実物を前にしてみれば、それは、優れたモダンアートだった。初対面では野蛮に見えた過激なスタイルも、あらゆるアングルから良く見えれば、随所がエレガントで繊細な面構成と様々なRを随所に取り入れたインテリジェントな造形によって構成されており、フォトジェニックだ。男心をくすぐるSVの鋭いウェッジシェイプも、カウンタックを前時代的なアニメに見せてしまう、まとまりの良さがある。
カレラGTを凌駕する高い剛性感も、脱水機にまたがっているかのようだったF50のエンジン剛結マウントとは違った、振動をうまく抑え込んだ至極まっとうなライドフィールを実現している。最新の(とはいっても数年前にデビューした)ラ・フェラーリと比較すればまた話は違ってくるのだろうが、新車販売価格からしてSVとラ・フェラーリを同じステージで比較する者はいない。かといってENZOと比較するのもお門違いであるが、長年を共にしてきた愛車と比較することでリアルなインプレッションがお届けできると考えた。
エンツォフェラーリ(Enzo Ferrari )
実際、かのニュルブルクリンクのラップタイムでは、アヴェンタドールSVは、2015年市販車最速ラップを刻み、かのポルシェ・テクノロジーの英知を集結して創り上げたハイブリッドの限定車、918スパイダーのラップタイムに、僅差というところまで迫っている。
標準タイヤを装着してのラップタイムではなかったのでは?という噂もあるが、様々なメーカーが、ニュル最速を刻むため様々なワザを駆使しているから、取り立てて騒ぐほどのことでもない。とにもかくにもアヴェンタドールSVの登場によって、ポルシェの立場が揺らぎはじめたのは確かだ。もうすぐお披露目される最新の911GT2RSでは、ポルシェの威信を掛けてラップタイムレコードを更新してくるに違いない。現在は同門とはいえど、ポルシェを脅かすランボ・・・一昔前では考えられなかった話だ。
アヴェンタドールにはカーボンテクノロジーの恩恵があるとはいえ、いまとなっては世界遺産かもしれぬV型12気筒自然吸気エンジンを搭載し、ライバルたちがデュアルクラッチのシームレスなシフトを実現させている現代において、軽さを理由にあえて搭載したというシングルクラッチのロボタイズドシステムは、スポーツカー乗りにとってはこれで良いのでは?と思えるほど、代を重ねて洗練度を増している。飛ばすほどスムーズなシフトを実現する調律からも、すべては男の走りをするためのマシンなのだからと思えてくる。
最大トルクについては、5500回転にて70.4kg-m、パワーは、どうせワインディングロードでは引き出せない車名の750psを、8400回転まで踏み込めば叩きだす。ENZOの660psが、遠い過去へ置き去りされてしまったかのような、世界屈強のランボルギーニ謹製パワーユニットである。
インテリアに配列された航空機のコクピットのようなパネルは、まだアタマが朦朧としていた早朝の取材開始時には、かつてのゲームセンターの指定席に居座っているかのような錯覚を覚えたが、慣れてくるとインターフェイスが洗練されていることに気づく。センターに配置されたノーマル、スポーツ、コルサモードのセレクタースイッチの搭載位置を除けば、すべてのスイッチが理論的で使いやすく、節度感もあって操作性も良い。精密感だけでなく機械としての剛性感にもあふれている。このあたりは、カテゴリーはまったく違うが、往年のクルマづくりから合理的変革を受けてしまった最新のロールスやベントレーも、きっとランボのつくり込みを褒めてくれるのではないだろうか。
猛牛が受け止める、750頭の馬。
何よりもアヴェンタSVが筆者の心を捉えたのは、750馬力を安全に、かつ本気で使う気にさせてくれる、マシンとの一体感にある。車幅2m超は、ENZOと同クラスだが、いつ乗っても巨大なクルーザーのようなENZOの車両感覚を狭いワインディングで掴み切るのは最低20分を要する。しかし、驚くべきことにアヴェンタSVは、乗り込んで踏み込むうちに、すぐに慣れてしまう。車体が縮小したかのような、人馬一体感の車両感覚が即座に得られるのだ。
全開走行のサーキットでは、コーナー脱出時のシフトアップ時にほんの少し、パドル操作とアクセルワークにコツを要するものの、それもまた乗り手のスキルを介在させられる余地のある、マニュアル感に満ちたかつてのスーパースポーツらしさがある。電子制御満載の、現代の乗せられている感バリバリのハイパーカーでは味わえない、ランボルギーニらしさ、すなわちスーパーカーらしさ、が味わえた。
考えてみれば、ランボルギーニが、リアル・スポーツカーだったことは筆者の記憶ではあまりなく、10年間も所有していたミウラも、美しいスポーツカーのカタチをした、遅くないトラクターだった。走らせたら、同じキャブ車でもキャブのセッティングが完調状態のフェラーリ308GTBベトロレジーナ(初期型ファイバーグラス)や、ディーノ208や308のGT4の方が、スポーツドライビングが味わえた。記憶を辿れば、ディアブロGTRとガヤルドがサーキットで楽しめるスポーツカーだったが、チューニングした日産R35GTRには及ばない、スーパーなエキゾチックカーだった。これにケチをつけるつもりはなく、スーパーカーとは、スポーツカーとは少し違うところにいたから、それがエンターテインメントであり、この手のクルマの面白さでもあった。
デートカーなら最新のフェラーリ。チャレンジする男なら、SVを選べ。
陽が傾きはじめ、2日間に及んだ取材もフィナーレを迎えた。ノーマルのアヴェンタではコルサモードが演出過剰で一番野蛮だ。なぜかSVでは、サーキットで使うコルサモードよりも、一般道で使えるスポーツモードの中速域が最も野蛮なサウンドを放つ。SVは、日常にもエキサイティングな非日常性を求める顧客の要望に答えようとしているかのようだ。
アクセルオフで後方から12匹の野獣の息遣いを聴きながら、コーナーをクリアしていくワイルドな爽快感は、スマートな富裕層向けに優等生になってしまった最新のフェラーリには無いものだ。各モードと連動するダイナミック・ステアリングアシストも、一般道ではスポーツモードが最もナチュラルでスポーティ。ここにSVの、らしさがある。
二回り小さいF355に乗っているかのような、コンパクトなクルマに乗っているSVの感覚こそが、スポーツカーに求める最大の要素であることは間違いない。現代のやたらと大きくなったスーパースポーツ群の中で、人馬一体感を得ることが出来るアヴェンタSVは、実は、最初のアヴェンタドールには搭載されなかった磁気粘性ダンパーによる、絶妙なセッティングによるものがあるかもしれない。現代のSV(スーパーヴェローチェ=めっちゃ速い)を体現させるため、あれやこれやと最新技術の投入があるにせよ、少なくともランボは、アヴェンタドールSVで真の意味での“スポーツカー”を世に送り出すことに成功したのではないか。
現代のスーパースポーツの世界でも、環境適合性も示すべき性能とされてしまい、エレクトリック・ハイブリッドやダウンサイジングターボが台頭する過渡期にある。
だからこそ、いつの日か、古典的なV12自然吸気エンジンが叩きだしたニュルの驚異的なラップタイムも含めて、ランボルギーニが現代に一石を投じた記念すべきスポーツモデルとして、歴史的にもアヴェンタドールSVが高い再評価を得るときがきっとくるだろう。
いずれにせよ、このクルマを手にした幸運な限定600人のうちの何人かは、真の男であってほしい。
減少傾向にある国内のLP750-4SVのグッドコンディション。
クルマ屋的に見れば、一時、熱心な日本のランボマニアの要望から日本国内への割り当てが増加したものの、その後、新興国をはじめ、中国をはじめアジアの富裕層からの熱心な引き合いによって、日本で登録された低走行の新古車SVの多くが海を渡ってしまっている。したがって現在、日本国内のタマ数は急速に減少傾向にある。これは、歴代のランボSVがそうだったように、だ。
過去の歴代SVの傾向を鑑みれば、SV以降に投入されるスパルタンモデル(たとえばGTやGTR、ペルフォルマンテ?も)が落ち着きを見せ始めたころに、SVは突如として、マニアの間でバリューが跳ね上がる傾向にある。
おそらく、SV以降に投入されるレーシングランボは、巨大なV12自然吸気エンジンを背後に積んだまま、クローズド走行に特化させていくスペックアップがもたらす、一種の弊害?か、スパルタンな走りとレーシング指向の神経質な乗り味と熱害が、市街地走行では逆に、ランボらしいエンターテイメントな楽しみ(公道における法定速度でも存分に楽しめるランボならではのスーパーカーらしいライドフィール)を日常的に味わうことができなくなるからかもしれない。
その点、アヴェンタドールSVは、日常の公道でレーシングな雰囲気を存分に、かつ安全に楽しめるだけでなく、いざ、サーキットに持ち込めば、SVならではの熱い走りのゾーンがこれでもか、というほど堪能できる。走りの気持ち良さを心得た良質なバランス感覚がある希少な、現代のスーパーカーである。
やはり、ランボSVは、オトコのクルマ。孤高のスーパーカー乗りが目指すべき絶景だ。
そして、デートカーには最新のフェラーリを選ぶべきだろう。